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東京地方裁判所 平成12年(ワ)17712号・平10年(ワ)21467号 判決

原告 清水達子

被告 西荻窪コーポラス自治会

右代表者自治会長 家田大蔵

右訴訟代理人弁護士 桝井眞二

被告 鈴木亜都子

被告 家田大蔵

主文

一  被告西荻窪コーポラス自治会は、原告に対し、二〇万円及びこれに対する平成一二年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告西荻窪コーポラス自治会に対するその余の請求、被告鈴木及び同家田に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告西荻窪コーポラス自治会の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告西荻窪コーポラス自治会及び被告鈴木は、原告に対し、各自一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告西荻窪コーポラス自治会及び被告鈴木は、原告に対し、各自平成一〇年一〇月二日から騒音解消の日まで一日一〇〇〇円の割合による金員を支払え。

三  被告家田は、原告に対し、五〇万円を支払え。

第二事案の概要

本件は、マンションの一階に居住する原告がマンションの自治会を被告として一階水槽電動室に給水ポンプを設置したことにより騒音及び振動被害を受けているとして慰謝料の請求をし、マンションに居住する者を被告として、右給水ポンプの設置は、被告らの不法行為によるものであるとして、同様に慰謝料の請求をする事案である。

一  争いのない事実と証拠により認定した事実

1  被告西荻窪コーポラス自治会(以下「被告自治会」という。)は、昭和四三年一〇月三〇日建築された別紙物件目録一記載の建物(以下「本件マンション」という。)の自治会であり、原告、被告鈴木及び同家田は、本件マンションに居住している者である(争いない事実と乙三)。

2  原告の夫であった訴外清水豊明は、昭和四三年一二月二五日、別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を買い受け、原告ら家族と共に居住していたが、昭和五〇年ころから本件建物には、原告一人で居住するようになり、昭和六一年には、原告は、訴外池沢に本件建物を賃貸して、他に移り住んだ。原告は、平成五年五月一四日、財産分与を原因として、本件建物の所有権を取得し、平成八年ころから再び本件建物に居住するようになった(乙三、原告)。

3  昭和六二年ころ、被告自治会は、本件マンションの屋上に設置していた高架式貯水タンクを廃棄し、本件建物から約二・五メートルの距離にある一階水槽電動室に給水ポンプを設置する工事(以下「本件工事」という。)を行った(争いない事実)。

二  争点

1  一階水槽電動室に給水ポンプを設置したことにより原告に騒音及び振動被害を与えているか否か。

(原告の主張)

被告自治会は、本件工事を行うことについて故意に原告に知らせず、また、区分所有者であった原告の同意を得ずに、西荻窪コーポラス共同管理規約一〇条に違反して本件工事を行ったものである。また、一階水槽電動室から出る給水ポンプ作動に伴う騒音及び振動は、昼夜、休日の別なく間断なく続いており、特に、本件マンションの住人による夜間の水道使用が極めて高いために、深夜の騒音が昼間より激しい状況にある。その結果、原告は入浴をするときにも騒音にみまわれ、朝起きたときから騒音と振動の中で生活している。そのため、原告は安眠できず、早朝から目が覚め、日常生活に多大の影響を受けて、精神的肉体的損害を被っており、精神神経科、内科及び整形外科の通院をも余儀なくされている。

(被告自治会の主張)

一階水槽電動室から発生する騒音及び振動は、受忍限度の範囲内である。

被告自治会は、騒音及び振動防止のための適切な措置をしたならば、損害賠償を求めるまでのことではないとの原告の主張に基づき、平成一二年二月に一二〇万円をかけて、給水方式をポンプ圧送方式(インバータポンプ)に交換する工事をした。その結果、一階水槽電動室から出る騒音は、右電動室外で四二デシベル、本件建物内で三七デシベルに低下しており、四五ないし五〇デシベルの暗騒音以下にとどまっている。振動については、元々なかったか、あったとしても受認すべき範囲内であって、防振工事をした後は全く感じられなくなっている。

被告自治会は、原告が主張した騒音防止工事を講じたのであるから、原告がその後においても被告自治会に対する損害賠償請求を維持しているのは、権利の濫用として許されない。

2  被告鈴木の不法行為

(原告の主張)

本件工事は、被告鈴木の発案で行われたものであり、被告鈴木は、右工事を行った三幸株式会社と談合の上、被告自治会の会長に腹心を配置し、被告自治会に本件工事の実施を提案し、原告には右自治会の開催を通知せず、本件工事を進めた点に違法行為がある。

(被告鈴木の主張)

本件工事は、屋上に設置していた高架式貯水タンクでは水圧が低く、湯沸かし器の火が途中で消えたり、水洗便所の流れが悪かったり、屋上の貯水タンクの重みで本件マンションの五〇三号室に雨漏りが生じるなど支障が発生していたため、自治会員の総意で行うことにしたものであり、被告鈴木の個人的意見で決まったものではない。原告は、転居先を被告自治会に通知しておらず、被告自治会は、本件工事を行う決議をした集会について原告に連絡をすることができなかったので、本件建物の賃借人であった訴外池沢には伝えていた。

3  被告家田の不法行為

(原告の主張)

被告家田は、本件工事を実施したときの被告自治会の会長であった。本件工事は、原告に特別の影響を及ぼすものであるから、西荻窪コーポラス共同管理規約一〇条に基づき、区分所有者全員の同意を必要とするのに、被告家田は、原告に本件工事について何ら知らせることなく、集会の出席もさせないで、本件工事を行った点に違法行為がある。

(被告家田の主張)

被告家田は、昭和五八年一二月から昭和六二年六月まで転勤で大阪市に居住していたが、東京に戻ってきた後の同年八月から昭和六三年一月まで被告自治会の会長を務めた。被告が東京に戻ってきた当時、原告は既に他に転居して、本件建物には訴外池沢が居住しており、本件工事の実施を決めた集会には訴外池沢が委任状を提出していたので、被告家田は訴外池沢が本件建物の所有者になったと思っていた。

第三争点に対する判断

一  原告の騒音及び振動被害について

1(1)  前記第二、一3の事実及び証拠(甲六、一四、一五、原告、被告鈴木、被告家田)及び弁論の全趣旨によれば、被告自治会は、昭和六二年ころ、本件マンションの屋上に設置していた高架式貯水タンクでは水圧が低く、湯沸かし器の火が途中で消えたり、水洗便所の流れが悪かったり、屋上の貯水タンクの重みで本件マンションの五〇三号室に雨漏りが生じるなど支障が発生していたため、右高架式貯水タンクを廃棄し、本件建物から約二・五メートルの距離にある一階水槽電動室に給水ポンプを設置する工事したこと、これにより一階水槽電動室の給水ポンプ作動に伴って騒音と振動が発生するに至ったこと、被告自治会は、本件訴訟の提起を契機にして、平成一二年二月に、給水方式を低騒音型のポンプ圧送方式(インバータポンプ)に交換するとともに、一階水槽電動室に防音扉や消音ダクトを設置し、穴をふさぐなどの防音工事と給水ポンプに防振装置を設置する振動防止工事(以下「本件改良工事」という。)を行ったことが認められる。

(2)  原告は、本件建物に居住し始めた平成八年ころから本件改良工事が行われるまでは、台所で食事の支度をするときや浴室で入浴しているときに大きな騒音に悩まされていたこと、寝室における騒音の程度はあまり大きくはなく、睡眠にはさほど支障がなかったこと、本件改良工事後には、騒音の程度は低くなったが、低周波による騒音に悩まされていること、それによって、精神的肉体的損害を被っており、精神神経科、内科及び整形外科の通院を余儀なくされていると供述する。

(3)  証拠(甲六、原告)及び弁論の全趣旨によれば、本件改良工事前においては、一階水槽電動室の給水ポンプの作動に伴う騒音によって本件建物内において、騒音が五〇デシベルを超えることがあったこと、本件改良工事によって、本件建物外における騒音が四二デシベル以下に低下したことが認められる。

(4)  そして、証拠(甲七、八の1、2、被告家田)及び弁論の全趣旨によれば、平成一一年四月一日に施行された環境基準では専ら住居の用に供される地域の基準値は、午前六時から午後一〇時までの昼間は五五デシベル以下、午後一〇時から午前六時までの夜間は四五デシベル以下とされていること、東京都公害防止条例における一般規制基準では、建物境界線における音量は住居地域・無指定地域において、四五デシベルから五〇デシベルとされていることが認められる。

(5)  以上によると、本件改良工事前の一階水槽電動室の給水ポンプの作動に伴い発生する騒音によって、本件建物境界線における騒音は、環境基準や東京都公害防止条例における一般規制基準を超えていたことが認められ、原告は、右騒音によって本件建物内において日常生活を送る上で支障を来していたと認められる。

原告は、騒音による被害は健康被害にまで及び、精神神経科、内科及び整形外科の通院を余儀なくされていたと供述するが、原告から健康被害を証明する客観的資料の提出はないし、証拠(原告)及び弁論の全趣旨によれば、原告が昭和六一年に本件建物を出て他に移り住んだのは、本件建物の周辺の家から出される昼夜魚を切る音や風鈴、洗濯機の音などに悩まされたことが原因であること、本件建物に昭和六一年から平成七年ころまで居住していた訴外池沢からは騒音による苦情は出されていなかったことが認められることからすると、原告が精神神経科、内科及び整形外科に通院をしているとしても、本件騒音によって健康被害を受けたことが原因であるとは認めることはできない。

そして、本件改良工事後には、本件建物境界線における騒音は、環境基準や東京都公害防止条例における一般規制基準を下回っており、原告においても本件改良工事後には、騒音の程度は低くなったことを供述するところであり、原告が本件改良工事後においても一階水槽電動室の給水ポンプの作動に伴い発生する騒音によって生活妨害を受けているとは認められないし、仮に、何らかの生活上の支障を来しているとしても、本件マンションにおいて多数の住民と共同生活を送っている原告において受認すべき範囲内であると認められる。

なお、原告は、低周波騒音による被害を供述するが、右被害を証する客観的証拠はなく、本件全証拠によるも右被害を認めることはできない。

2  本件全証拠によるも、一階水槽電動室の給水ポンプの作動に伴い発生する振動によって、原告が被害を被っていると認めることはできない。

3  以上によると、一階水槽電動室の給水ポンプの設置者である被告自治会は、右給水ポンプの作動に伴い発生する騒音によって原告が生活妨害を受けた平成八年から平成一二年二月までの間の原告の損害を賠償すべき責任があると認められる。

そして、前記1に判示した、原告における生活妨害の主たるものは台所における食事の支度や入浴中に支障を来したというものであって、睡眠にはさほど支障がなかったこと、被告自治会が一階水槽電動室に給水ポンプを設置したのは合理的理由に基づくものであったこと、原告は近隣の風鈴や洗濯機の音や魚を切る音などにも敏感であるのに対し、本件建物に以前居住していた訴外池沢からは騒音による苦情が出されていなかったことなどに併せて、給水ポンプの作動に伴い発生する騒音は、その性質上本件マンションの居住者において水道を利用する際に発生するものであり、絶えず生じているものではないこと、多数の者が一棟の建物に居住するマンションにおいて生活する者にとって、共同生活から発生する騒音についてはある程度受認しなければならないことなどを総合考慮すると、右期間の原告の慰謝料としては、二〇万円を相当とする。

4  なお、原告は、一階水槽電動室に給水ポンプを設置した際の被告自治会の決議が、西荻窪コーポラス共同管理規約一〇条に違反するなどの主張をするが、被告自治会の責任の判断においては、一階水槽電動室の給水ポンプからの騒音及び振動が原告に被害をもたらしているかどうかを判断すれば足り、被告自治会の決議の違法は、被告自治会の責任の判断に影響するものではない。

5  そうすると、原告の被告自治会に対する請求は、慰謝料二〇万円及び右損害のすべてが発生したのちであると認定できる、被告自治会が本件改良工事を行った後である平成一二年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める請求の限度で理由がある。

二  被告鈴木の不法行為について

本件全証拠によるも、本件工事が被告鈴木の発案で行われたこと、被告鈴木は三幸株式会社と談合の上本件工事を実施したこと、被告鈴木が被告自治会の会長に腹心を配置して被告自治会の決議をしたことの事実は認められず、また、被告自治会において、本件工事を行う決議を行った際、本件マンションの区分所有者として参加していた被告鈴木に違法行為があったとは認められないので、原告の被告鈴木に対する請求は理由がない。

三  被告家田の不法行為について

1  証拠(甲二、一四、一五、原告、被告家田)及び弁論の全趣旨によれば、被告家田は、本件工事を実施したときの被告自治会の会長であったこと、西荻窪コーポラス共同管理規約一〇条一項には、共用部分の変更は区分所有者全員の同意を必要とするが、共用部分の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものは区分所有者総数の四分の三以上(一八名以上)の多数で決することができると定められ、同条三項には、共用部分の改良又は維持修繕により、専有部分若しくは専用使用権に特別の影響を及ぼすおそれがある時は、その所有者若しくは専用使用権者の承諾を得なければならないと定められていること、本件工事の実施を決議した昭和六二年九月二九日の集会において委任状の提出を含めて一五名の出席で行われたこと、本件工事の実施に関しては原告の承諾を得ていないことが認められる。

2(1)  前記第二、一2によれば、昭和六二年当時の本件建物の区分所有者は訴外清水豊明であり、原告は、本件建物の所有者でも専用使用権者でもなかったから、本件工事に関して原告の同意を得なかったことは違法ではない。また、証拠(甲一四、一五、被告家田)によれば、本件工事の実施を決議した昭和六二年九月二九日の集会及び本件工事の完了を報告した昭和六三年一月二八日の集会のいずれにおいても、本件建物の区分使用者である訴外池沢が委任状を提出しており、訴外池沢は本件工事の実施を知って異議を述べていなかったこと、右集会において本件工事によって騒音及び振動の被害が生じるという指摘はなかったことが認められる。右事実によれば、被告家田において、本件工事の決議を行う当時、本件工事が専有部分若しくは専用使用権に特別の影響を及ぼすおそれがあるとは認識していなかったと認められるし、右認識をしていなかった点を過失であると認めることもできないので、同被告が、本件工事の決議に当たって、本件建物の区分所有者若しくは専用使用権者の承諾を得なかったことをもって違法ということはできない。

(2)  本件工事を実施する旨の決議は、西荻窪コーポラス共同管理規約一〇条一項によれば、少なくとも区分所有者総数の四分の三以上の多数で決する必要があったところ、右決議は委任状の提出を含めて一五名の出席で行われ(右一五名については、訴外池沢のように区分使用者が含まれており、区分所有者が誰であるかが明確にされていない。)、右規約に従って議決が行われていないと認められ、右の点に違法があるといわなければならない。

しかしながら、証拠(甲一三ないし一五、乙一、被告鈴木、同家田)及び弁論の全趣旨によれば、被告自治会において従前から集会に区分所有者の出席がなかなか得られず、西荻窪コーポラス共同管理規約に従って被告自治会の運営を行っていくことが困難な状況にあり、原告が被告自治会の会長をしていたときも同様で、右規約に基づかずに集会の決議を行い、改良工事を実施することもあったこと、被告自治会の会長は、輪番制で六箇月交替で区分所有者が順番に会長職を務めていたことが認められる。右事実によれば、被告自治会の集会において本件工事を実施する決議をした当時輪番制により被告自治会の会長になった被告家田において、西荻窪コーポラス共同管理規約に従わずに、本件工事実施の決議を行った手続上の違法があったことをもって、本件工事によって設置した一階水槽電動室の給水ポンプの騒音による被害に関して、不法行為上の違法行為を構成すると考えることはできないし、被告自治会の会長である規約違反の違法行為と原告の騒音による被害との間に相当因果関係あるとも認められないというべきである。

よって、原告の被告家田に対する請求は認められない。

四  以上により、原告の本訴請求は、被告自治会に対し、二〇万円及びこれに対する平成一二年三月一日から支払済みまで年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告自治会に対するその余の請求、被告鈴木及び同家田に対する請求は理由がないからいずれも棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田順司)

物件目録

一 (一棟の建物の表示)

所在 杉並区西荻北三丁目一二五番地一

構造 鉄骨造陸屋根五階建

床面積 一階 二八六・二六平方メートル

二階 二七八・一〇平方メートル

三階 二七八・一〇平方メートル

四階 二三三・八二平方メートル

五階 二一八・八五平方メートル

二 (一の建物のうち、専有部分の建物の表示)

家屋番号 西荻北三丁目一二五番一の一四

種類 居宅

構造 鉄骨造一階建

床面積 一階部分 四七・六八平方メートル

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